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3.2. 過去時制と現在完了形

 ここで、過去時制と現在完了形について比較をして、それぞれの形式が持つ意味についてより理解を深めることにする。過去時制も現在完了形も表す出来事については、過去に生じたことであることに変わりはない。しかし、話し手の心境からどちらかの形式が選択される。

(27)
a. We lived in Hakodate for five years.
(私たちは函館に5年間住んでいました。)
b. We have lived in Hakodate for five years.
(私たちは函館に5年間住んでいます。)

 (27a)は過去時制、(27b)は現在完了形である。そして、(27a)は函館に5年間住んでいたことを表しているが、この5年間については過去時制を話し手が用いているところから、現在と切り離された関係にある。このとき話し手は、現在において函館に住んでいないことになるが、この現在との切り離しについて示すと次のようになる。

(28)


 上で5年間を表す期間は漠然とした過去の時間帯に存在するが、現在とは結びつきがないので、結局はある過去からある過去までの期間を表すことになる。

 これに対して(27b)は現在完了形を話し手が用いているところから、現在とはつながりを持つ関係にある。このことを示すと次のようになる。

(29)


 上で5年間を表す期間は漠然とした過去から生じているが、現在とはつながりを持つ期間である。

 このように過去時制には現在との切り離し、現在完了形には現在とのつながりという意味が形式に含まれている。2つの形式を話し手がどのように選択していくかについては、発話の際の話し手の心境と念頭に置かれる時点による。この念頭に置かれる時点とは、文脈上時を表す副詞に相当する。前の2例では5年間という期間だけだが、念頭には過去時制で「あの頃に」、現在完了形では「あの頃から」というような時が置かれていると考えられ、文脈上には現れないが言外に含まれている。

(30)
a. 宿題をさっき終えた。
b. 宿題を今終えた。

 上は日本語の例だが、意味上(30a)は英語においての過去時制に相当し、そして(30b)は現在完了形に相当している。英語のどちらの形式に相当するかについては、「さっき」や「今」が意味上明確にしているので区別がしやすいが、実際は発話の際にこれらを省略して「宿題を終えた。」とだけ言うことも多い。
 この場合、この単文だけでは過去時制と現在完了形のどちらに相当するのかはわからないことになるが、話し手の心境では「さっき」または「今」が念頭に置かれていることになり、文脈上には現れないが言外には含まれていることになる。

(31)
a. Did you ever meet John?
b. Have you ever met John?

 上の2例は「ジョンに会ったことがありますか。」と相手に聞いている。話し手が特定の過去を念頭に置いた場合は(31a)が選択され、そうでなければ(31b)が選択される。ここで過去時制と現在完了形の時間表示を比較してみることにする。

(32)
a. 過去時制


b. 現在完了形


 違いは心の位置(M)が現在時にあるか、それとも過去時にあるかということだけなのがわかる。(32a)では心の位置(M)が現在時から離れるために、話し手の心境が現在から途切れていることを表している。それに対して(32b)では、心の位置(M)が現在時から離れず残っているので、心境が現在とつながっているままであることを表している。

(33)
a. Did you see the exposition?
b. Have you seen the exposition?

 上の2例についても同様のことがいえる。(33a)では博覧会が終えていることを前提として発話している。(33b)ではその博覧会がいまだに開催中であるときに発話している。


 この過去時制と現在完了形の感覚としては、「点」と「線」で言い表すこともできる。「点」とは時間的にある一点を意味し、「線」とは時間的幅を意味する。そこで、特定の過去を念頭に置く過去時制は「点」に相当し、ある過去から現在までのつながりを持つ現在完了形は「線」に相当するのである。


(34)
a. Einstein visited Princeton.
(アインシュタインはプリンストンを訪れた。)
b. Einstein has visited Princeton.
(アインシュタインはプリンストンを訪れたことがある。)

 上はよく用いられるアインシュタインとプリンストンに関係する例である。この場合、(34b)は発話の際に用いることができない。なぜなら、アインシュタインはすでに故人となっているからである。このように現在完了形では、話題とされる人物について現存していなければ、用いることができないのが普通なのである。
 このことは故人について発話する際は、話し手はその話題が故人のことゆえに特定の過去を念頭に置くのが普通であり、故人について現在と結びつける現在完了形は不自然に感じられると考えられる。
 
 それでも、会話の中でプリンストンを話題にしている場合は用いることが可能になる。これはプリンストンが現在においても現存しているからであり、その点では現在完了形を用いても不自然さはないからである。


 ところで、(31)の2例について、アメリカ英語では過去時制を用いたDid you ever 〜 ? の形式が用いられる傾向にあるといわれている。ここで(31)の2例をもう一度示す。

(35)
a. Did you ever meet John?
b. Have you ever met John?

 このような傾向は完了・結果の用法にも現れている。

(36)
a. Did the children come home yet?
b. I just came back.
c. You told me already. (以上3例はQuirk:1985)

 上の3例はいずれも現在完了形が用いられるのが通常の場合に、過去時制を用いている例である。このように過去時制を好むことはアメリカ英語でみられる傾向である。それに対して、イギリス英語では現在完了形が好まれるが、これらについても話し手の焦点の置き方から生じていると考えられる。
 上の3例については、現在と出来事の間が、たとえ少しの時間的間隔であったとしても、現在と切り離した話し手の心境から選択されているのである。


 以上述べてきたことが過去時制と現在完了形の相違である。このことから、それぞれの形式に用いられる時を表す副詞に、文法上の制約があることも容易に理解できる。
 それはyesterdayやtwo days ago、last night、whenなどの副詞を、現在完了形では用いることができないことである。なぜなら、これらの副詞は特定の過去を示すために、話し手はその過去に焦点を置くことを意味するからであり、そのために現在に焦点を置く現在完了形とは矛盾するからである。そして、もしも話し手がこのような副詞を念頭に置いた場合は、現在完了形ではなく、過去時制を発話の際の形式として自然に選択することになる。



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