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1.2. その他の現在時制

 これまで述べた4つの用法が、主な現在時制の用法であるが、ここではそれ以外の用法についても述べていく。それらには、過去の出来事を現在時制で表す「歴史的現在」、また類似するが伝達動詞を用いた用法、さらには現在時制の未来表現、時や条件を表す副詞節においての現在時制がある。しかし、現在時制が持つ本質的な意味からはずれることはない。


1.2.1. 歴史的現在について

 歴史的現在とは、過去の出来事を現在時制で表すことである。したがって、通常は過去時制で表す出来事を現在時制で表すことになるが、その効果から話し手は生き生きとした表現で出来事を伝えることができるようになる。
 
 歴史的現在は1300年頃になって文学において用いられるようになった(Curme:1931)。当然それは歴史的現在が表す効果をねらっていたと考えられ、Jespersen(1933a)はこのことから歴史的現在を「劇的現在」と呼んでいる。

 しかし、歴史的現在は日常会話でもよく用いられている用法である。Jespersen(1933a)は歴史的現在について「話し手は時のことを忘れてあたかも目の前でその出来事が生じているかのように想像する。」とも述べているが、このことは現在では伝統的な説明とされている。そして伝統的な説明とされるほど、歴史的現在について十分に説明されているということができる。この歴史的現在には次のような例がある。

(14)
a. Soon there is a crowd around the prostrate form, the latest victim of reckless speeding. A strong man holds the little fellow in his arms. The crowd makes room for a slender woman who cries out, “Give me my boy.”
(無謀な速力の最近の犠牲となって倒れた姿のまわりに、ほどなく群衆が集まってくる。一人の屈強な男が、その小さな児を両腕に抱き上げる。群衆は、一人のすらっとした婦人に道をあける。すると、その婦人は大声で「坊やをおくれ」と叫ぶ。) (Curme:1947)

b. He took me by the wrist, and held me hard; then goes he to the length of all his arme; And with his other hand thus o'er his brow, He fals to such perusal of my face, As he would draw it. Long staid he so.
(あの方は、私の手首をおとりになり、しっかりと、にぎりしめられました。それから、腕をずっとのばせるだけ退かれます。そして、もう一方の手を、こんな風に、ひたいの上におやりになって、私の顔をしげしげとごらんになるのです。まるで、その絵でも画こうかとでも、言うように。長い間、そんな風にしてらっしゃいました。) (Jespersen:1933b)

 上の2例はいずれも物語の文であるが、読者に対し生き生きと描写するために歴史的現在としての現在時制を用いている。この歴史的現在を時間表示にすると、次のようになる。

(15)


 発話時(S)は当然現在時である。そして出来事時(E)については、明らかに過去に生じた出来事なので過去時におかれる。しかし、歴史的現在は話し手があたかも目の前で過去の出来事が生じているかのように想像することなので、その過去時の出来事が想像という意味から現在時においても現れていることになる。そこで上の時間表示上で現在時にある(E)は、想像による過去時の出来事時(E)を想定している。そして心の位置(M)は現在時にあるが、このとき想像の(E)があることから現在時において3点が全て重なることになる。この3点が全て重なることは、次の現在時制の時間表示に類似する。

(16)


 このことは過去の出来事を過去時制ではなく、現在時制で表すことを意味する。



 次は話し言葉においての歴史的現在の例である。

(17)
He just walks into the room and sits down in front of the fire without saying a word to anyone.
(彼は、へやの中へつかつかとはいって来たと思うと、暖炉の前に腰をおろして、だれにもひと言も口をきかない。) (Palmer:1965)

 歴史的現在とは会話の中でもよく用いられている。このことについて、Wolfson(1982)も「対話、ひそひそ話、感情豊かな声、身振り、そして繰り返しのような特徴を持つ語りの中で用いられる。」と述べている。


 ところで、歴史的現在とは明らかに過去において生じた出来事を表す用法である。それは過去時制で表すことが普通な場合に、現在時制を用いることである。したがって、文脈上では最初は過去時制で始まり、そこから歴史的現在としての現在時制に変わることが多い。

(18)
I met Takeda yesterday. It was terrible! He is drunk. He speaks to anybody around him and says he is ready to make them happy.
(私は昨日竹田に会った。ひどかったよ。酔っぱらっているんだ。まわりのだれにでも話しかけて、いつでも幸せにしてやるというんだ。) (荒木:1997)

 上の例は最初の2文で過去時制が用いられているが、It was terrible!という話し手の心境を表すところから、歴史的現在が用いられている。これは、過去時制を用いて単なる情報として相手に伝えていたことを、It was terrible! を境にして過去の出来事を現在に引っ張り出してきたことを表している。

(19)
a.過去時制


b.歴史的現在


 (19a)は過去時制の時間表示である。過去時制については第2章で述べていくので詳細についてはここでふれないが、生じた出来事が過去のことなので、出来事時(E)は過去時に置かれる。そして(19a)は、前の例において冒頭の2文の時間表示に相当することになるが、It was terrible! をきっかけとして時間表示が(19b)に変わるのである。(19b)では、(19a)と同様に出来事については過去であるが、話し手があたかも現在のこととして語るために、話し手の想像する出来事が仮の出来事時の(E)として現在時に置かれることになる。

(20)
I was just about to go to bed when all of a sudden there's a knock at the door and Sam rushes in.
(寝ようとしていたら、突然ドアにノックの音がして、サムが飛び込んできたんだ) (柏野:1999)

 上も話し言葉の例である。最初は過去時制が用いられ、後に歴史的現在としての現在時制が用いられている。この例の場合、歴史的現在が用いられるきっかけとなっているのはsuddenである。このsuddenは話し手の驚きという心境をよく表している部分であるが、その驚きから歴史的現在を用いて発話しているのである。







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